競馬には、数字だけでは語れない馬がいる。
時計やラップを見れば一流。
しかし、次のレースでは信じられないような大敗を喫する。
そんな常識では測れない馬は、いつの時代も競馬ファンを惹きつけてきた。
そして昭和の競馬界には、その代表格とも言える存在がいた。
その名は――エリモジョージ。
「気まぐれジョージ」と呼ばれた名馬
エリモジョージは、1970年代に活躍した名馬である。
重賞を勝ち、天皇賞(春)まで制した実力馬だったが、多くの競馬ファンの記憶に残っているのは、その能力だけではない。
勝つ時は他馬を寄せ付けない圧勝。
しかし負ける時は、人気を背負いながら大敗する。
そのあまりにも極端な成績から、競馬ファンは親しみを込めて彼を**「気まぐれジョージ」**と呼んだ。
予想家泣かせでありながら、どこか憎めない。
「今日は走るのか、それとも走らないのか。」
そんなワクワク感を与えてくれる存在だった。
だからこそ、今なお語り継がれる愛すべき個性派なのである。
令和にも現れた「気まぐれジョージ」

そして令和。
私は、あのエリモジョージを思い出させる一頭がいると感じている。
今週、小倉記念に出走予定のウエストナウである。
通算14戦4勝。
数字だけを見れば、特別派手な成績には映らない。
しかし、そのレース内容を細かく見ていくと、驚くほど極端な特徴が浮かび上がってくる。
勝つ時はリステッド競走を制するほどの強い競馬。
一方で、負ける時は二桁着順まで崩れることも珍しくない。
まるで別の馬が走っているかのような成績なのである。
私は、この馬を**「令和の気まぐれジョージ」**と呼んでいる。
もちろん、単なるムラ馬という意味ではない。
能力そのものは、重賞級と評価できるだけのものを持っている。
前走で証明した重賞級の能力

その能力を最も証明したのが、前走のメトロポリタンステークスだった。
勝ち時計は2分23秒1。
それ以上に注目したいのが、ラスト5ハロン58秒3という数字である。
2400メートル戦で終盤58秒台を記録することは簡単ではない。
最後までスピードを落とさず走り切る持続力と、高い巡航能力が求められる。
過去、この水準を記録した馬を見ると、
- アーモンドアイ
- シャフリヤール
- オーソリティ
- ウインテンダネス
など、その後も重賞戦線で活躍した実力馬が並んでいる。
もちろん、数字だけで同列に語ることはできない。
しかし、それでも「この水準で走れる能力がある」という事実は非常に大きい。
ラスト5ハロン58秒台という数字は、偶然出せるものではない。
高い持続力とスピード能力があってこそ初めて記録できる数字なのである。
この時計だけを見れば、重賞級と評価しても決して大げさではないだろう。
なぜここまで成績が極端なのか
では、なぜこれほど能力がありながら安定して走れないのか。
戦績を一つずつ見返していくと、ある共通点が見えてくる。
好走しているレースの多くは、
- 少頭数
- 外枠
- スムーズに先行、あるいは外を回れる競馬
このような条件が揃っている。
反対に、
- 多頭数
- 内枠
- 馬群に包まれる展開
では、本来の能力を発揮できていないケースが非常に多い。
もちろん、競馬に絶対はない。
偶然の可能性もある。
しかし、ここまで傾向が一致していると、単なる偶然だけでは説明しきれないようにも感じる。
「揉まれない競馬」が最大の条件
私は、この馬は揉まれない競馬でこそ真価を発揮するタイプではないかと考えている。
気持ち良く走れた時のパフォーマンスは非常に高い。
しかし、馬群の中で窮屈になると、自分のリズムを崩してしまう。
競馬には、能力だけでは説明できない精神面の要素が存在する。
特に繊細なタイプの馬は、自分のリズムを守れるかどうかだけでパフォーマンスが大きく変わる。
ウエストナウも、その典型なのかもしれない。
血統にも表れる個性

この特徴は、血統背景から見ても興味深い。
父はキズナ。
キズナ産駒は、持続力に優れ、長く良い脚を使う馬が多い。
一瞬だけ爆発するというよりは、長く脚を使って押し切るタイプが目立つ。
そして母父は世界的名馬Frankel。
欧州競馬史に残る最強クラスの競走馬であり、その産駒や母父としても高い能力を伝えている。
一方で、欧州血統らしい繊細さや気難しさを見せる馬も少なくない。
キズナが伝える持続力。
Frankelが伝える底力と精神的な繊細さ。
この組み合わせを考えると、能力が高い反面、精神状態によってパフォーマンスが左右されやすいという特徴が現れても不思議ではない。
血統は能力だけではなく、性格やレースでの振る舞いにも影響すると言われる。
ウエストナウは、その一例と言えるのではないだろうか。
小倉記念で最も重要なのは「枠順」
だからこそ、今週の小倉記念で私が最も注目しているのは、能力ではない。
枠順である。
もし外枠を引き、自分のリズムで運べる形になれば、この馬は重賞でも十分通用するだけの能力を持っている。
逆に、内枠で馬群の中に閉じ込められるような競馬になれば、本来の力を発揮できない可能性もある。
能力差ではなく、競馬のしやすさ。
それがこの馬にとっては何より重要なのだ。
競馬ファンの多くは、馬柱の着順だけを見て評価しがちである。
しかし、この馬に関しては、着順以上に「どんな競馬をしたのか」を見る必要がある。
だからこそ、予想する側にとっても非常に難しい存在なのである。
条件ひとつで評価は変わる
もし今回敗れたとしても、それだけで能力を否定する必要はない。
条件が噛み合えば、次走であっさり巻き返しても何ら不思議ではない。
逆に人気を集めた時でも、条件が合わなければ大敗する可能性もある。
だからこそ、この馬は予想家泣かせであり、競馬ファンを魅了する存在でもある。
「今日は走るのか。」
「それとも走らないのか。」
そんなドキドキ感を与えてくれる馬は、今の競馬界では決して多くない。
まとめ
ウエストナウは、単なるムラ馬ではない。
ラスト5ハロン58秒3という数字が示すように、能力だけを見れば重賞級と言っていいだけのポテンシャルを秘めている。
しかし、その能力を最大限発揮できるかどうかは、展開や馬群、そして枠順に大きく左右される。
だから私は、この馬を「令和の気まぐれジョージ」と呼びたい。
予想を裏切る。
期待も裏切る。
それでも条件さえ噛み合えば、誰よりも強い走りを見せてくれる。
そんな気まぐれで、どこか憎めない個性こそが、ウエストナウ最大の魅力なのかもしれない。
今週の小倉記念。
ぜひ能力だけではなく、枠順とレース運びにも注目しながら、この一頭の走りを見届けてほしい。


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