さて、今週の競馬で最も衝撃的だったレースは何だったのか。
おそらく多くの人は府中牝馬ステークスや重賞レースを挙げるだろう。
しかし、競馬というものは必ずしも重賞だけを見ていれば良いわけではない。
むしろ本当に危険なのは、まだ世間が気付いていない条件戦の中に眠っている怪物候補である。
先週土曜日。
全国的に雨が降り続いた。
阪神競馬場も例外ではない。
芝コースは水分を含み、時計のかかるコンディションとなった。
実際、この日の芝レースを振り返っても、普段の高速馬場とは程遠い状況だったことがわかる。
馬場が悪化すれば何が起こるのか。
スピードだけでは押し切れない。
スタミナが必要になる。
パワーも必要になる。
そして何より、最後まで脚を使い続ける持続力が求められる。
そんなタフな馬場だった。
ところが、その常識をまるで無視するようなパフォーマンスを見せた馬がいる。
阪神9レース・舞子特別を勝利したアヴィオンである。

この馬について、まず簡単に整理しておこう。
ここまで通算3戦2勝。
未勝利戦を勝ち上がり、その後の1勝クラスも連勝。
今回は昇級初戦だった。
普通ならクラスの壁を意識するタイミングである。
しかし、単勝オッズは1.3倍。
競馬ファンはすでに能力の違いを理解していた。
その理由も明確だ。
未勝利戦では後にニュージーランドトロフィーを制するレザベーションを撃破している。
単なる条件馬ではない。
それはすでに証明されていた。
そして迎えた舞子特別。
レース内容も非常に興味深い。
スタートを決めると迷わずハナへ。
道悪馬場で先頭に立つというのは、実は簡単なことではない。
馬場の悪い場所を通ることになる。
後続に目標にもされる。
普通なら控えて脚を溜めたくなる。
しかしアヴィオンは違った。
自らレースを支配した。
前半600メートル36秒0。
数字だけ見るとかなり遅い。
極端なスローペースである。
だからレース中、多くのファンはこう考えたはずだ。
「最後は瞬発力勝負になる」
と。
ところが直線に向いても状況は変わらない。
後続が追い出す。
しかし差は縮まらない。
むしろ広がる。
追えば追うほど前との差が開いていく。
最後は3馬身差。
着差以上に内容が濃い勝利だった。

だが、本当に重要なのはここからである。
競馬を見る上で大切なのは着差だけではない。
時計だ。
まず勝ち時計は1分35秒5。
これだけでも優秀だが、本当に注目すべきはラップである。
後半4ハロン44秒8。
上がり3ハロン32秒9。
道悪馬場であることを考えれば、かなり優秀な数字だ。
しかし、それ以上に衝撃的だったのが後半5ハロン57秒5である。
競馬に詳しい人ほど、この数字の意味がわかるだろう。
57秒5という数字は簡単には出ない。
しかも雨の阪神である。
ここで少し比較をしてみたい。
同条件で近い数字を記録していた馬を調べると、メイケイエールやエリザベスタワーが浮かび上がる。
どちらも重賞ウイナーである。
つまり何が言いたいのか。
アヴィオンはまだ条件馬でありながら、重賞馬と同じ土俵の数字を叩き出しているのである。
もちろん競馬は時計だけでは決まらない。
展開もある。
相手関係もある。
馬場差もある。
だから数字だけを見て「重賞確勝」と言うつもりはない。
しかし、逆に言えば条件戦でこのレベルの数字を出す馬もそう多くは存在しない。
ここは素直に評価すべきだろう。
さらに面白いのは血統背景である。

父はNight of Thunder。
欧州屈指の大種牡馬Dubawiの系譜に属する。
日本ではまだ馴染みが薄いかもしれない。
しかし欧州ではトップクラスのスピード血統だ。
そして母系を見れば、さらに驚く。
Sea The Stars。
Galileo。
説明不要の歴史的名血である。
欧州競馬を語る上で欠かせない名前が並んでいる。
つまりアヴィオンは単なるスピード馬ではない。
スタミナ。
持続力。
成長力。
それらを兼ね備える可能性が高い血統構成となっている。
実際、今回見せた競馬も単なる瞬発力だけでは説明できない。
道悪馬場を先行しながら最後まで脚色が衰えなかった。
それは血統背景とも一致する。
ここで読者に一つ問いかけたい。
もしこのレースが良馬場だったらどうなっていただろうか。
もっと速い時計が出ていたのではないか。
もっと大きな着差がついていたのではないか。
そう考える人も少なくないだろう。
もちろん仮定の話に意味はない。
しかし、それだけ想像を膨らませるだけの内容だったことは間違いない。
まだキャリア4戦。
重賞には出走していない。
GⅠ級と断言するには早すぎる。
だが、だからこそ面白い。
怪物候補とは、まだ誰も怪物だと確信していない段階の馬を指す。
後になって振り返った時、
「あの時の舞子特別が出発点だった」
そう語られる可能性は十分にある。
雨の阪神。
多くの馬が苦しんだ馬場。
その中でアヴィオンだけが別の競馬をしていた。
57秒5。
競馬ファンなら覚えておきたい数字である。
そしてもし次走で重賞に挑戦するなら。
その時は人気や着順だけで判断してはいけない。
なぜなら、この馬はすでに条件クラスの枠を超えるパフォーマンスを見せているからだ。
競馬ファンが今のうちに名前を覚えておくべき一頭。
その名は――アヴィオンである。

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