先週の阪神競馬場で、一頭の良血馬が鮮烈なデビューを飾りました。
その名は――リスグロワール。
母は、日本競馬を代表する名牝リスグラシュー。
国内のみならず海外の大舞台でも輝きを放った名牝の3番仔として誕生したリスグロワールは、デビュー前から大きな注目を集めていました。
そして迎えた初陣。
決してスムーズなレースではなかったにもかかわらず、最後の直線で見せた末脚は強烈でした。
ラスト2ハロンは、
10秒7―10秒9。
合計――21秒6。
2歳馬が阪神芝1800mで記録したものとしては、過去最速となる数字です。
今回は、リスグラシューの娘・リスグロワールがデビュー戦で見せた走りと、この「21秒6」が持つ意味について振り返っていきます。
母は世界を制した名牝・リスグラシュー

リスグロワールを語るうえで、やはり最初に触れておかなければならないのが、その母でしょう。
母は――リスグラシュー。
現役時代には国内外で数々の大レースを制し、日本競馬史にその名を刻んだ名牝です。
若い頃から高い能力を示していましたが、年齢を重ねるごとにさらに力をつけていったことも印象的でした。
そんな名牝の血を受け継いで誕生したのが、3番仔となるリスグロワールです。
母の名を知る競馬ファンであれば、デビュー前から期待せずにはいられない存在だったのではないでしょうか。
ただし、どれだけ素晴らしい血統を持っていても、競走馬として結果を残せるとは限りません。
大切なのは、実際のレースでどのような走りを見せるのか。
そしてリスグロワールは、その最初の一戦で大きな可能性を感じさせるパフォーマンスを披露しました。
大きく出遅れたデビュー戦
舞台となったのは、先週日曜日の阪神5R。
芝1800mで行われたメイクデビュー阪神でした。
注目を集める中でゲートが開きましたが、リスグロワールにとって決して理想的なスタートではありませんでした。
ゲートを出ると、大きく出遅れ。
キャリア最初の一戦ということを考えれば、この時点でかなり難しい競馬になったようにも見えました。
しかし、ここからの対応が印象的でした。
後方からのスタートとなったものの、慌てることなく徐々にポジションを押し上げていきます。
3コーナーを迎える頃には、先行集団のすぐ後ろまで進出。
出遅れによって失ったポジションを道中で取り戻し、勝負どころを迎える頃には十分に勝負できる位置まで押し上げていました。
そして迎えた最後の直線。
ここでも、決して簡単な状況ではありません。
前には馬がいて、狙ったのは内側のスペース。
すぐに全開で追える状況ではなく、進路が開くのを待つ形となりました。
そして――スペースが生まれ、追い出されます。
そこから見せた脚は強烈でした。
一気に加速すると前との差を詰め、残り100m付近で先頭を捉えます。
最後まで勢いは衰えず、そのまま押し切ってゴール。
見事、デビュー勝ち。
大きく出遅れながら道中でポジションを取り戻し、直線では馬群の内側から抜け出す。
キャリア最初の一戦としては、内容の濃い勝利だったと言えるでしょう。
ラスト2ハロン「21秒6」の衝撃

しかし、今回特に注目したいのは、単に「良血馬が新馬戦を勝った」ということだけではありません。
注目したのは――最後の2ハロンです。
勝ち時計は1分48秒7。
そしてレースのラスト2ハロンは、
10秒7―10秒9。
合計すると――
21秒6。
非常に速い数字です。
調べてみると、2歳の阪神芝1800mにおいて、ラスト2ハロン21秒6は過去最速となる数字でした。
まだ競走馬として最初の一戦。
しかも2歳9月という早い時期です。
その段階で「10秒7―10秒9」というラップを刻んだことには、大きな可能性を感じさせます。
特に注目したいのが、10秒台のラップを一度だけ記録したのではないという点。
10秒7で加速したあとも、続く1ハロンを10秒9でまとめています。
一瞬だけ鋭い脚を使ったのではなく、高いスピードを次の1ハロンまで維持した。
ここは、このレースを評価するうえで非常に興味深いポイントではないでしょうか。
全世代でも限られた馬しか記録していない領域

さらに、この「21秒6」という数字。
対象を2歳馬だけではなく、全世代まで広げて見ても非常に珍しい記録でした。
同じ阪神芝1800mでラスト2ハロン21秒6を記録していた馬として確認できるのが、
ドーブネ、そしてテンダンス。
極めて限られた馬しか到達していない領域です。
もちろん、ラスト2ハロンだけを切り取って、単純に馬の能力を比較することはできません。
レースのペース、馬場状態、展開、位置取りなどによって、上がりの数字は大きく変化します。
その点については、今回のレースでも冷静に考える必要があります。
前半1000mは63秒4――評価には注意も必要
今回のレースで忘れてはいけないのが、前半のペースです。
前半1000mは――63秒4。
芝1800mのレースとしては、かなりゆったりとした流れでした。
前半で大きく体力を消耗するような展開ではなかったからこそ、最後に速いラップを刻みやすい条件が整っていたことは間違いありません。
したがって、「21秒6だから歴代の名馬と同等」「すでに重賞級」といった単純な評価をするのは早いでしょう。
ただ――それを考慮しても、今回の走りには魅力があります。
何より、まだ2歳9月の新馬です。
キャリア最初の実戦で大きく出遅れ、道中でポジションを押し上げ、直線では進路が開くのを待ちながら、最後に10秒7―10秒9。
完成された古馬がスローペースから繰り出した末脚ではありません。
まだ競馬を覚えていく段階にある若い馬が、初めての実戦で見せた数字です。
だからこそ、現時点での完成度以上に、これからどこまで成長していくのかという部分に期待したくなります。
リスグラシュー産駒、待望の初勝利
そして今回の勝利には、時計やラップとはまた違った特別な意味がありました。
それが――
リスグラシュー産駒の初勝利。
これまでリスグラシューが送り出した仔たちは、残念ながらなかなか勝利へ手が届きませんでした。
1番仔のシュヴェルトリリエは、勝利を挙げることができないまま、レース中の故障によってその生涯を終えました。
そして2番仔のジリアートも、未勝利のまま繁殖入り。
名牝リスグラシューの仔ということで大きな期待を集めながらも、産駒の初勝利はなかなか訪れませんでした。
だからこそ――
3番仔リスグロワールが届けた今回の勝利は、単なる新馬勝ち以上の意味を持つ一勝だったように思います。
待ち望まれていた、リスグラシュー産駒の初勝利。
しかも、その内容がラスト2ハロン21秒6という強烈な末脚を伴うものだった。
母のファンにとっても、非常に印象深い一戦になったのではないでしょうか。
次走は母も制したアルテミスステークスへ
そしてリスグロワールには、早くも次なる舞台が予定されています。
次走として予定されているのが――
アルテミスステークス。
ここにも、ひとつの物語があります。
アルテミスステークスは、母リスグラシューも2歳時に制した重賞です。
つまり次走では、
母子制覇
という大きな期待もかかることになります。
もちろん、新馬戦と重賞では条件が大きく違います。
デビュー戦では前半1000m63秒4というスローペースでしたが、重賞になればメンバーのレベルも上がり、流れそのものが厳しくなる可能性があります。
今回のように脚を溜められるのか。
速い流れになったときにも同じような末脚を使えるのか。
そして、今回見せたゲートの課題を次走でどこまで改善できるのか。
アルテミスステークスでは、リスグロワールの本当の能力を測るうえで非常に興味深いポイントになりそうです。
名牝の物語、その続きを見せられるか

母リスグラシューが現役時代に残した、数々の輝かしい記憶。
その血を受け継いだ娘が、ようやく最初の一歩を踏み出しました。
大きく出遅れながらも慌てることなくポジションを押し上げ、直線では内から鋭く抜け出してデビュー勝ち。
そして最後に刻まれた数字は――
10秒7―10秒9。
ラスト2ハロン、21秒6。
2歳の阪神芝1800mでは過去最速。
もちろん、前半1000m63秒4というスローペースだったことは忘れてはいけません。
現時点で能力を決めつけるには、まだ早いでしょう。
しかし――
まだ2歳9月。
しかも、これがキャリア最初の一戦です。
その馬が見せた「21秒6」だからこそ、大きな可能性を感じずにはいられません。
そして次に向かうのは、母も勝ったアルテミスステークス。
母が歩んだ道を――今度は娘が歩き始めます。
母子制覇なるか。
リスグロワール。
名牝リスグラシューの物語の続きを見せてくれるのか。
次走、そしてその先の走りにも注目したい一頭です。


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