令和のマキバオー――誕生か?

今後に注目すべき馬

競馬ファンなら、一度はその名前を聞いたことがあるかもしれません。

競馬漫画の名作『みどりのマキバオー』。

主人公のマキバオーは、小柄な体ながら強豪馬たちを相手に数々の激闘を繰り広げました。

その一方で、作品の中では思わず笑ってしまうようなコミカルな場面も数多く描かれています。

その中でも印象的なのが――

レース中に排便しながら走る姿。

漫画だからこそ成立するような、何ともマキバオーらしい場面です。

ところが先週。

東京競馬場で、まるでその姿を思わせる一頭の2歳馬が現れました。

その名は――

ヴェントセラーレ。

しかも、この馬。

単に珍しい出来事が起きただけではありません。

レース中にまさかのハプニングがありながら、最後の直線では後方から豪快に追い込み――

後続を4馬身突き放して圧勝。

さらに、そのレース内容を数字で調べてみると、過去のダート重賞馬にも並ぶ非常に興味深い記録を残していました。

今回は、そんな「令和のマキバオー」と呼びたくなる2歳馬、ヴェントセラーレについて詳しく見ていきます。

4コーナーを迎える前に起きた「まさかの出来事」

舞台は東京ダート1600m。

16頭立てで行われた2歳新馬戦でした。

ヴェントセラーレはスタートから無理に前へ行くことなく、道中は後方を追走。

初めての実戦ということもあり、まずは自分のリズムでレースを進めているように見えました。

そして、レースが後半へ向かい、各馬が徐々にポジションを上げようとする中――

4コーナーを迎える、その前でした。

まさかの排便。

競走馬ですから、レース中にこうしたことが起きること自体は決してあり得ない話ではありません。

ただ、今回面白かったのはここからです。

ヴェントセラーレは、そんな出来事などまるで気にしていないかのようにレースを続行。

4コーナーを13番手で回ると、最後の直線で大外へ。

そこから一気に加速します。

前を走っていた馬たちとの差を、みるみるうちに縮めていく。

そして最後は先頭へ立つだけでは終わりませんでした。

後続との差をさらに広げ――

4馬身差の圧勝。

後方13番手から直線だけで前をまとめて差し切り、最後は明確な着差をつける。

デビュー戦としては、かなりインパクトのある勝ち方でした。

しかも、その直前には「まさかの出来事」。

この光景を見て、僕の頭に浮かんだのが――

「令和のマキバオー」

でした。

ただし、このレース。

単なる珍事件として笑って終わるには、あまりにも内容が優秀だったのです。

本当に注目したいのは「35秒5」と「36秒6」

今回のレースで注目したのは、二つの数字です。

まず一つ目が――

レース前半600m、35秒5。

そしてもう一つが――

ヴェントセラーレ自身の上がり3F、36秒6。

東京ダート1600mで前半600mが35秒5というのは、2歳の新馬戦として決して楽な流れではありません。

当然、前へ行った馬には一定の負荷がかかります。

しかしヴェントセラーレは、その流れを後方で追走。

そして直線に入ってから、一頭だけ違う末脚を繰り出しました。

自身の上がりは36秒6。

単純に「4馬身差で勝った」という結果だけを見るのではなく、

ある程度流れたレースを後方から追走し、最後に速い上がりを使って突き抜けた。

ここが今回のポイントだと思います。

そこで、この数字が過去の2歳戦と比較してどの程度のものなのか。

過去10年の東京ダート1600mで行われた2歳戦を調べてみました。

過去10年で並んだのは、わずか2頭

条件は以下です。

過去10年。

2歳戦。

東京ダート1600m。

良馬場、稍重馬場に限定。

そのうえで、

前半600mが35秒5以内。

さらに、

勝ち馬自身の上がりが36秒6以内。

この二つを満たした勝ち馬を調べてみると――

今回のヴェントセラーレ以外で該当したのは、わずか2頭でした。

その一頭が――

ルクソールカフェ。

後にダート重賞戦線へ進み、エルムステークス、そして武蔵野ステークスを制した重賞馬です。

そしてもう一頭が――

マクリール。

こちらも雲取賞で3着に入り、その後は3勝クラスまで勝ち上がっています。

もちろん、条件を設定して過去の馬を抽出したデータですから、

「この数字に該当したから将来必ず重賞馬になる」

という話ではありません。

競馬にそこまで単純な方程式はありません。

それでも、新馬戦を勝ったばかりの2歳馬が残した数字として考えれば、非常に興味深いものがあります。

過去10年の同条件で似た数字を記録した馬が少なく、その中には後にダート重賞を勝つところまで出世した馬もいる。

ヴェントセラーレが今回見せたパフォーマンスを評価する、一つの材料にはなるでしょう。

「4馬身差」以上に感じた末脚のインパクト

個人的に今回のレースで特に印象に残ったのは、着差以上に最後の伸びでした。

4コーナーでは13番手。

つまり、直線を迎えた段階では前に多くの馬がいました。

新馬戦の場合、まだレース経験のない2歳馬たちが集まります。

砂を被ったり、前に馬がいたり、周囲に他馬がいる状況で集中力を失ってしまう馬も珍しくありません。

そんな中でヴェントセラーレは後方からレースを進め、直線で外へ持ち出されると一気に加速。

前にいた馬を一頭、また一頭と交わしながら伸びていきました。

そして先頭に立ってからも脚色は鈍らない。

結果は4馬身差。

「展開が向いたから差し切れた」というだけでは説明しづらいほど、最後は力の違いを感じさせる内容でした。

まだデビュー戦。

完成度という意味では、これから成長していく部分も多いはずです。

それでも初戦からこれだけ強烈な末脚を見せたことは、今後を考えるうえで大きな魅力です。

父はダート王・ルヴァンスレーヴ

そしてヴェントセラーレについて、もう一つ注目したいのが血統です。

父は――

ルヴァンスレーヴ。

現役時代には全日本2歳優駿、ジャパンダートダービー、南部杯、そしてチャンピオンズカップを制覇。

世代戦から古馬の一線級との戦いまで、ダート界の頂点で活躍した名馬です。

特に3歳時の活躍は強烈でした。

ダート路線のトップホースとして大きな期待を集めた父から、ヴェントセラーレも高いダート適性を受け継いでいる可能性があります。

さらに母父には――

三冠馬・オルフェーヴル。

そして母系をさらにたどっていけば、世界的大種牡馬――

Galileo。

という名前も出てきます。

父から期待できるダート適性。

そして母系には、スタミナや底力を感じさせる血。

今回の東京ダート1600mで見せた末脚だけでなく、今後距離が延びた時にどのような走りを見せるのかも気になる血統構成です。

今回のレースだけを見ると東京1600mで強烈な追い込みを決めましたが、血統背景を考えれば、将来的にもう少し長い距離で違った一面を見せても不思議ではありません。

「令和のマキバオー」が冗談ではなくなる日

もちろん――

ヴェントセラーレは、まだデビューしたばかりの2歳馬です。

キャリアは、わずか1戦。

今回の圧勝だけを見て、将来の重賞馬だと決めつけることはできません。

相手関係も変わります。

クラスが上がれば、当然ながらレースのレベルも上がる。

今回のように後方から進めた時、より強い相手を同じように差し切れるのか。

ペースが落ち着いた時にも末脚を発揮できるのか。

今後確認していかなければならない部分は、まだまだあります。

それでも――

デビュー戦で後方13番手から直線一気。

上がり36秒6の末脚を繰り出し、最後は4馬身差。

さらに、過去10年の東京ダート1600m・2歳戦を振り返っても、後のダート重賞馬などに並ぶ興味深い数字を記録しました。

そして何より――

レース途中には、まさかのハプニング。

それでも最後まで集中力を切らさず、むしろ直線では他馬を圧倒する走りを見せた。

漫画『みどりのマキバオー』を知っている競馬ファンなら、どうしてもあの主人公の姿を重ねてしまいます。

令和のマキバオー――ヴェントセラーレ。

今はまだ、少し笑ってしまうような愛称かもしれません。

しかし、この馬がこれから勝ち上がり、いつの日かダート重賞の舞台まで進んでいけば――

「あの新馬戦が始まりだった」

と振り返る日が来るかもしれません。

珍しい出来事だけでは終わらなかった、非常に印象的なデビュー戦。

次走でどんな走りを見せるのか。

ヴェントセラーレの今後に注目です。

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