サイレンススズカ超えの逃げ馬――誕生

今後に注目すべき馬

日本競馬史において、「逃げ馬」と聞いて真っ先にその名前を思い浮かべる競馬ファンは少なくないだろう。

サイレンススズカ。

圧倒的なスピードで先頭に立ち、後続を引き離していく。

ただ逃げるのではない。

他馬がついていくことすら難しいペースで飛ばし、それでも最後まで止まらない。

その異次元のスピードは、今なお多くの競馬ファンの記憶に刻まれている。

そんなサイレンススズカが1998年、芝2200mの宝塚記念を逃げ切った際、前半1000mで刻んだ数字が――

58秒6。

そして2004年。

同じ宝塚記念を逃げ切った名馬、タップダンスシチー。

後にジャパンカップを9馬身差で圧勝することになる歴史的な逃げ馬が、このレースで記録した前半1000mは――

58秒5。

芝2200mという距離を考えれば、どちらも驚異的な数字である。

しかし先週。

その数字を遥かに上回るペースで逃げながら、そのまま最後まで止まることなく押し切った、衝撃の3歳馬が現れた。

その名は――

ロードフィレール。

ロードフィレール (Lord Filer) | 競走馬データ – netkeiba

新潟芝2200mで刻んだ「57秒6」

先週土曜日、新潟競馬場で行われた芝2200mの阿賀野川特別。

そこでロードフィレールが刻んだ前半1000mの数字は、

57秒6。

サイレンススズカの58秒6より1秒。

タップダンスシチーの58秒5より0秒9速い。

もちろん、競馬場も違えば、時代も違う。

馬場状態も違う以上、単純に数字だけを比較して「ロードフィレールがサイレンススズカを超えた」と結論付けることはできない。

それでも、芝2200mという決して短くない距離で、3歳馬が前半1000mを57秒6で通過した。

これだけでも、十分すぎるほど異例である。

しかもロードフィレールの本当の凄さは、

57秒6で走ったことだけではなかった。

実は前走から「重賞級」の数字を記録していた

ロードフィレールをこのチャンネルで取り上げるのは、今回が初めてではない。

前走の香嵐渓特別。

このレースでロードフィレールが記録した数字に、非常に興味深いものがあった。

それが、

前半4F49秒1以内、後半4F45秒0以内。

という条件である。

平成以降、芝2000mでこの条件を満たした馬を調べてみると、該当したのはわずか3頭だった。

トランスワープ。

グロンディオーズ。

オースミグラスワン。

そして、この3頭には共通点がある。

全馬が、その後に重賞タイトルを獲得していることだ。

トランスワープは函館記念、新潟記念を制覇。

グロンディオーズはダイヤモンドステークスを勝利。

オースミグラスワンは新潟大賞典を2度制している。

つまり、ロードフィレールが前走で記録した数字は、過去の例だけを見れば、その後の重賞戦線で活躍した馬たちと同じ領域にあったことになる。

もちろん、当時のロードフィレールはまだ条件クラス。

重賞の舞台に立った経験すらない。

そのため、前走の数字だけをもって「重賞級」と断定することはできなかった。

しかし少なくとも、

数字の上では、すでに重賞馬たちが歩んだ領域へ足を踏み入れていた。

だからこそ、次走が重要だった。

前走の走りは偶然だったのか。

それとも、本当にこの馬が持つ能力だったのか。

その答えが、先週の新潟で示されることになる。

400m23秒3、600m34秒0――明らかに速い

阿賀野川特別。

スタートすると、ロードフィレールは迷うことなく先頭へ向かった。

そして序盤から、一気にペースを引き上げていく。

400m通過――

23秒3。

600m通過――

34秒0。

芝2200mのレースとして考えれば、明らかに速い。

それでもロードフィレールはペースを落とさない。

そのまま先頭を走り続け、1000m地点を通過する。

そこで表示された数字が――

57秒6。

まだレースは半分にも満たない。

芝2200m。

1000mを通過した時点で、ゴールまでは1200mも残されている。

普通に考えれば、このペースで飛ばした馬に待っているのは「失速」だろう。

むしろ、あまりにも速すぎる。

レースを見ていた人の中には、

「さすがに飛ばしすぎではないか」

そう感じた人も多かったのではないだろうか。

前半1000m57秒6。

芝2200mという距離を考えれば、もはや暴走とも表現できる超ハイペースだった。

当然、最後は止まる。

……はずだった。

57秒6で飛ばして、最後の400mが「22秒8」

しかし――

ロードフィレールは止まらなかった。

最後の直線。

ここまでハイペースで逃げ続けた馬なら、脚色が鈍っても何ら不思議ではない。

ところが、ロードフィレールが刻んだラスト400mのラップは、

11秒3。

そしてラスト200mが、

11秒5。

つまり最後の400mを――

22秒8。

前半1000mを57秒6という超ハイペースで飛ばしておきながら、最後の400mを22秒8でまとめたのである。

驚くべきは、最後まで何とか粘ったという内容ではないことだ。

普通なら、57秒6というペースで入れば、終盤はどれだけ失速を抑えられるかという勝負になる。

しかしロードフィレールは違った。

最後に待っていたのは、大きな失速ではない。

さらなる加速だった。

後続の追撃を許さず、そのまま鮮やかに逃げ切り。

勝ち時計は――

2分09秒3。

これでロードフィレールは3勝目を挙げた。

「破格の逸材」という評価を、自ら証明した

前走の香嵐渓特別で、ロードフィレールを「破格の逸材」として紹介した。

その根拠となったのが、平成以降の芝2000mで極めて少数しか達成していなかったラップ条件だった。

ただし、それはあくまで一戦の数字である。

競馬では展開、馬場、相手関係など、さまざまな条件によってパフォーマンスが大きく変わる。

一度だけ凄い数字を記録した馬が、その後同じような走りをできないことも決して珍しくない。

だからこそ、ロードフィレールの次走には注目していた。

そして、わずか一戦後。

ロードフィレールは今度は、

前半1000m57秒6。

という、さらに衝撃的な数字を叩き出した。

しかも、その超ハイペースを自ら作りながら、最後まで止まることなく逃げ切った。

前走の走りが偶然ではなかったことを、

誰かの評価ではなく、

自らの走りによって証明してみせた。

これは非常に大きい。

まだ「重賞馬」ですらない

ただし、忘れてはいけないことがある。

ロードフィレールは、まだ重賞馬ではない。

GⅠタイトルを持っていないどころか、重賞タイトルすら持っていない。

実績だけを比較すれば、サイレンススズカやタップダンスシチーと並べる段階では当然ない。

サイレンススズカは、日本競馬史を代表する逃げ馬。

タップダンスシチーもジャパンカップ、宝塚記念を制した歴史的名馬である。

ロードフィレールは、まだキャリアを積み上げている途中の3歳馬にすぎない。

それでも――

今回刻んだ数字だけは、すでに常識の外にある。

サイレンススズカ――58秒6。

タップダンスシチー――58秒5。

そして、

ロードフィレール――57秒6。

繰り返しになるが、時代も違う。

競馬場も違う。

馬場状態も違う。

したがって、この数字だけを使って「サイレンススズカより強い」「タップダンスシチーを超えた」と語るのは適切ではないだろう。

しかし、

一頭の3歳馬が新潟芝2200mで前半1000m57秒6というペースを刻み、それでも最後まで止まらなかった。

そしてラスト400mを22秒8で駆け抜け、そのまま逃げ切った。

その事実だけは揺るがない。

令和の逃亡者――爆誕か

前走では、過去の重賞馬たちに並ぶ異例のラップ。

そして今回は、芝2200mで前半1000m57秒6。

二戦続けて、ロードフィレールは数字でその能力の高さを示してきた。

もちろん、これから相手はさらに強くなる。

条件戦と重賞では、レースの厳しさも変わる。

同型の逃げ馬が現れれば、自分のペースで走れないレースも出てくるだろう。

そして何より、この極端ともいえる逃げを、より高いレベルの相手にも貫くことができるのか。

まだ分からないことは多い。

だからこそ――

この馬の次走が楽しみでならない。

圧倒的なスピードで先頭へ立ち、自らレースを作り、常識では考えにくいラップを刻みながら、それでも最後まで止まらない。

そんな逃げ馬が、再び日本競馬に現れるのだろうか。

まだ「名馬」と呼ぶには早い。

まだ「怪物」と断定する段階でもない。

しかし――

その可能性を感じさせるだけの数字は、すでに残した。

ロードフィレール。

前半1000m――57秒6。

最後の400m――22秒8。

果たして、この馬は一体どこまで行くのだろうか。

令和の逃亡者――爆誕か。

その答えは――

次のレースが、教えてくれる。

コメント

タイトルとURLをコピーしました