① 怪物確定――
競馬には、結果だけでは測れないレースがある。
勝ったから凄いのではない。
時計が速かったから凄いのでもない。
その一戦の中に、
「未来のGⅠ馬」が見える瞬間がある。
先週の日曜日。
私は、その瞬間を目の当たりにした。
その馬の名は――
トミーバローズ。
もはや怪物候補ではない。
私は、このレースを見て確信した。
怪物確定である。

② 重賞の裏で生まれていた歴史
先週の日曜日。
新潟競馬場では、夏の名物重賞・アイビスサマーダッシュが開催された。
日本で唯一の直線1000メートル重賞。
スピード自慢たちが激突するこの舞台で、
ピューロマジックが見事な連覇を達成。
さらに、長年破られることのなかったカルストンライトオのレースレコードまで更新し、
5歳となった今もなお進化を続ける姿を全国へ示した。
まさに主役にふさわしい走りだった。
しかし、その数時間前――。
多くの競馬ファンが重賞へ意識を向ける中、
唯一重賞の行われなかった中京競馬場で、
歴史に残るかもしれない一頭が静かに走っていた。
中京6R・中京スポニチ賞。
そこには、
未来のスプリント界を変える可能性を秘めた一頭がいた。
その名は――
トミーバローズ。
③ 前走で見せた”異常”
実は、この馬を初めて高く評価したのは前走だった。
東京1600メートル。
一見すると、ただ強いだけの勝利。
しかしラップを分析すると、
その内容は常識を超えていた。
特に注目したのが後半5ハロン。
56秒0。
この数字は、
アーモンドアイをはじめ、
日本競馬史に残る名馬たちと比較しても最上位クラス。
動画でも私は、
「次走こそ本当の実力が分かる」
そう話した。
本当に強い馬なら、
条件が変わっても勝つ。
展開が向かなくても勝つ。
不利があっても勝つ。
そしてトミーバローズは、
その答えを、
誰も予想できない形で見せつけることになる。
④ 最悪のスタート
ゲートが開く。
しかし、
スタートで痛恨の出遅れ。
わずかな遅れ。
だが高速決着となる1400メートルでは、
その数完歩が致命傷になる。
さらに今回は中京1400メートル。
直線は長いとはいえ、
コーナーで加速しづらく、
前が止まりにくいコース。
後方一気が決まり続ける舞台ではない。
しかもレースは、
前半3ハロン33秒6という超ハイペース。
前も速い。
後ろも苦しい。
普通なら差し馬は脚を使わされ、
最後は止まる。
それが競馬である。
だからこそ、
この時点で勝負はかなり厳しいと思った。
⑤ 残り200メートル
4コーナー。
まだ後方。
直線へ向いても、
前には何頭もの馬が壁となって立ちはだかる。
進路はない。
騎手も追い出せない。
ようやく外へ持ち出せたのは、
残り200メートル付近。
この時点で、
まだ後方3番手。
普通なら、
ここから届くことはない。
まして相手には、
実力馬アイニードユーがいる。
勝負は決した。
誰もがそう思った。
⑥ 次元の違う加速

しかし――。
その瞬間だった。
トミーバローズだけ、
脚色がまるで違った。
加速した、
という表現では足りない。
地面を滑るように。
空気を裂くように。
一完歩ごとに、
前との差が消えていく。
周囲の馬たちが脚色を失う中、
この馬だけが、
さらに加速していく。
映像だけを見ても異様だった。
最後は実力馬アイニードユーを完全に捕らえ、
そのまま差し切り勝ち。
ただ勝ったのではない。
力でねじ伏せた。
そう表現するしかない内容だった。
⑦ 本当に凄いのはラップだった

しかし、
私が最も驚いたのは、
その豪脚ではない。
ラップタイムだった。
前半3ハロン。
33秒6。
後半3ハロン。
33秒9。
一見すると、
速いラップにしか見えない。
だが、
この組み合わせが異常だった。
1400メートル戦において、
33秒6-33秒9。
過去のJRA主要開催を振り返っても、
このラップ構成はほぼ存在しない。
つまり、
競馬史上でも極めて珍しいレベル。
高速で流れながら、
最後まで失速しない。
普通は前半が速ければ、
終いは必ず落ちる。
しかし、
このレースは落ちなかった。
それだけレース全体のレベルが高く、
その中で最後まで脚を使えたトミーバローズの能力は、
数字以上に価値がある。
⑧ 56秒0が意味するもの
さらに驚くべき数字がある。
後半5ハロン。
56秒0。
過去10年、
この数字を記録した馬を調べると、
ダノンスマッシュ。
ウインマーベル。
ママコチャ。
ウリウリ。
いずれも重賞戦線で活躍した一流馬ばかりだった。
偶然ではない。
56秒0という数字そのものが、
トップクラスの能力を証明している。
そして今回、
トミーバローズもその領域へ到達した。
いや、
条件を考えれば、
それ以上だったと言える。
⑨ レコードタイの価値
勝ち時計は、
1分18秒7。
しかもレコードタイ。
ただし、
私は時計だけでは評価しない。
時計は馬場で変わる。
展開でも変わる。
重要なのは、
その時計をどういう競馬で出したか。
今回は、
・出遅れ。
・後方待機。
・前が壁。
・追い出し遅れ。
これだけの不利がありながら、
レコードタイ。
だから価値がある。
スムーズなら、
さらに速かった可能性すらある。
そう考えると、
この時計の意味はさらに重くなる。
⑩ GⅠ級の証明
私は普段、
簡単に「GⅠ級」という言葉は使わない。
能力評価は慎重に行う。
しかし、
今回だけは違った。
ラップ。
時計。
展開。
不利。
相手関係。
すべてを総合して考えても、
このレースは、
GⅠ級の能力を証明した一戦だった。
まだ3勝クラス。
しかし能力だけを見るなら、
重賞でも十分通用していい。
そう思わせるだけの説得力があった。
⑪ 唯一の不安
ただ一つだけ、
どうしても気になることがある。
血統である。
父は、
ヘンリーバローズ。
そして叔父にあたるのが、
シルバーステート。
どちらも、
競馬ファンなら誰もが知る才能馬だった。
しかし、
二頭とも脚部不安によって、
あまりにも早くターフを去った。
能力は間違いなく一級品。
それでも、
競走馬は無事でなければ夢を叶えられない。
この血統には、
その不安がどうしても付きまとう。
だから私は、
次走が楽しみである一方、
無事でいてほしいという気持ちの方が強い。
⑫ 怪物候補では終わらない
競馬には、
一瞬だけ輝いて消えていく才能もある。
だからこそ、
本物には長く走ってほしい。
トミーバローズには、
まだ見ぬ大舞台が待っている。
重賞。
そしてGⅠ。
その先には、
日本最強スプリンターへの道もあるかもしれない。
今回のレースは、
単なる3勝クラスの勝利ではない。
未来のGⅠ馬が、
その能力を世に示した証明のレースだった。
もはや怪物候補ではない。
怪物確定。
あとは、
その才能が無事に育ち、
最高峰の舞台で証明される日を待つだけである。

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