舞台は新潟競馬場。
今週土曜、夏のローカルシリーズを締めくくる最終12レース・芝1600メートル。
ここに、かつて「ダービー候補」とまで呼ばれながらも大きな挫折を味わった一頭が登場する。
その馬の名は――レイニング。

名血の証明
レイニングは、美浦の名門・国枝栄厩舎が送り出す牡馬だ。
母は2015年のクラシック戦線で大いに注目を浴びたクルミナル。桜花賞ではクイーンズリング、コンテッサトゥーレとともにハイレベルな3歳牝馬戦を演じ、レッツゴードンキの2着。続くオークスでもミッキークイーンの3着に食い込み、世代を代表する実力馬であった。
さらに姉には、2022年の中山牝馬ステークスで2着、2023年の中山金杯でも2着と、中山競馬場を舞台に存在感を発揮したククナがいる。
まさに母系に脈々と流れる「大舞台で輝く血」。その血を受け継いだレイニングには、デビュー前から「相当な逸材」との期待が集まっていた。
国枝調教師といえば、牝馬クラシックでの実績は枚挙に暇がない。アパパネ、アーモンドアイという名牝を育て上げた名伯楽だ。その国枝厩舎が「最後の大物」として託した存在が、このレイニングだった。調教師本人が定年を翌年に控えていたこともあり、ファンの間では「国枝厩舎の集大成を飾る馬になるのでは」との声も少なくなかった。

鮮烈すぎたデビュー戦
初陣は2023年11月、東京競馬場の芝1800メートル戦。
スタートから道中は後方でじっくりと脚を溜める。前半1000メートルの通過は64秒2という超スローペース。普通であれば、こうした流れでは前に位置した馬がそのまま粘り込み、差し馬はなす術もなく敗れる。
だが、レイニングは違った。
直線に向いても鞍上はまだ手綱を動かさない。まるで併せ馬の調教をしているかのような余裕の走り。そこから一気に加速し、前を行く馬たちをあっさりと差し切ってしまった。
しかも、その上がり3ハロンのタイムは32秒9。
しかも追っていない状態での32秒台である。
東京芝1800メートルという舞台で、32秒台の上がりを記録した馬は過去10年でレイニングただ一頭。この数字がいかに異常であるか、競馬ファンであれば容易に理解できるだろう。
その衝撃的な勝ち方は瞬く間に話題となり、「来年のダービーはこの馬」と囁かれるまでになった。

国枝厩舎の「最終兵器」
国枝調教師は数々の名馬を世に送り出してきたが、定年が目前に迫っていた。そんな状況も相まって、レイニングは「最後の大物」「国枝厩舎の最終兵器」としてファンの期待を一身に背負う存在となっていく。
デビューからわずか1戦で、その次走に選ばれたのはダービーへの最終切符を争うプリンシパルステークス。通常、経験を積んだ馬たちが挑む舞台に、キャリア1戦の新星が送り込まれること自体が異例だった。
だが、それほどまでに「この馬なら通用する」という手応えがあったのだろう。ファンもメディアも熱狂し、レイニングは堂々と1番人気に支持された。
プリンシパルSの悪夢
しかし――現実は残酷だった。
スタート直後から折り合いを欠き、掛かり気味に前進してしまう。余計な力を使いすぎた結果、序盤から体力を消耗。直線に向いたときには、もはやデビュー戦のような余裕はどこにもなく、脚は完全に止まっていた。
次々と後続に交わされ、結果はまさかの最下位。
衝撃的なデビューから一転して、信じられない惨敗。
「本当に強かったのか?」
「32秒9は幻だったのか?」
ファンの間には疑念が渦巻き、一気に熱狂から失望へと空気が変わってしまった。大きな期待を背負った馬ほど、ギャップの衝撃もまた大きい。

幻ではない「32秒9」
それでも――あの32秒9が幻でないことは、誰もが理解している。
潜在能力の高さは疑いようがない。課題はただひとつ、気性と折り合い。
掛かりやすさを抑え、リズムよく走ることさえできれば、再びあの末脚を繰り出せるはず。
そこで陣営が選んだのは距離短縮。
芝1800メートルから、より折り合いがつきやすい芝1600メートルへ。無駄な力みを抑え、直線の爆発力に繋げるための戦略だった。
新潟最終レースへ
そして今週土曜。舞台は新潟競馬場の芝1600メートル、最終12レース。
条件は1勝クラス。格としては大きくはないが、レイニングにとっては「再出発」の戦いとなる。
かつて「ダービー候補」とまで呼ばれ、名伯楽の最後の夢を託された逸材。
最下位という大惨敗を経験した今、再び“異常な強さ”を見せることができるのか。
復活をかけた一戦。
それは単なる1勝クラスの戦いにとどまらない。
名門厩舎の歴史と、ファンの夢を背負った物語の続きなのだ。
果たして、レイニングは再び輝きを取り戻すのか。
それとも、あの32秒9は幻に終わってしまうのか。
注目の一戦が、新潟で幕を開ける。

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