夏競馬の終盤を告げる札幌競馬場。
北の大地で行われる伝統の一戦――札幌2歳ステークスが、いよいよ幕を開ける。
出世レースとしての札幌2歳S
このレースは、毎年のように後の大舞台で活躍する馬を送り出してきた「出世レース」として知られている。
昨年の勝ち馬アルマヴェローチェは、秋以降に急成長を遂げ、のちにGⅠタイトルを手にした。さらに、マジックサンズはNHKマイルCで存在感を示し、ファイアンクランツは青葉賞で2着と健闘。
歴代の出走馬を振り返れば、札幌2歳Sがただの2歳重賞にとどまらず、未来のスターホースが羽ばたく「始発駅」であることが分かるだろう。
今年の有力馬たち
では、2025年の札幌2歳ステークスには、どのような注目馬が集結するのか。
まず名前が挙がるのは、池添謙一騎手が強い関心を示すショウナンガルフ。調教から手応え十分と噂され、陣営の期待も大きい。
次に注目されるのが、ルメール騎手が福島までわざわざ遠征して騎乗したという異例の経歴を持つロスパレドネス。名手がそこまで動いたという事実は、それだけでこの馬の資質を証明している。
さらに、底知れぬ可能性を秘めるスマートプリエールも出走予定。血統背景や調教の動きから見ても、侮れない存在である。
これらの素質馬たちが顔を揃えるだけでも、今年の札幌2歳Sがハイレベルな一戦となることは間違いない。だが――。
静かに存在感を増す「結晶」
もう一頭、見逃してはならない馬がいる。
その名はヒシアムルーズ。

この馬が注目される理由は、まず血統にある。
父は皐月賞馬サートゥルナーリア。母はアメリカGⅠ馬という超良血で、昨年のセールでは約1億5000万円で取引された。まさに「日米の名馬の血を凝縮した結晶」と呼ぶにふさわしい存在だ。
さらに一族の成績にも特徴がある。兄ルシュヴァルドールはダートで4勝、もう一頭の兄ノットファウンドもダートで3勝を挙げている。総じてスタミナとパワーを色濃く伝える血統であり、長距離やダートに適性を示す傾向がある。

デビュー戦で見せた資質
しかし、そのヒシアムルーズが選んだデビュー戦は、芝1800メートル。しかも札幌競馬場という洋芝の舞台だった。
8月9日の新馬戦。稍重の馬場状態で迎えた一戦で、この馬は一瞬にしてファンを驚かせる走りを披露した。
ゲートが開くと、ヒシアムルーズは抜群のスタートを切り、好位にスッと収まる。ペースが緩んだ場面でも折り合いを欠くことなく、リズム良く追走。そして3コーナー手前から鞍上の合図に反応すると、まるで自分の意思で動いているかのように加速。直線では力強く抜け出し、そのまま押し切ってしまった。
勝ち時計は1分50秒0。
これは過去10年の同条件(稍重・札幌芝1800m)の新馬戦において歴代1位という記録であり、しかも昨年のGⅠ馬アルマヴェローチェを上回る内容だった。時計面だけでなく、展開的にも価値が高い。ラスト6ハロンから加速が続く厳しい流れを、先行して押し切ったというのは、着差以上の強さを物語っている。
まさに「横綱相撲」と評されるにふさわしいデビューだった。

洋芝で示した「強さ」
札幌の洋芝は、日本の競馬場の中でも特にタフな条件で知られる。含水率が高くなれば時計がかかり、スピード一辺倒の馬では通用しない。必要とされるのは、瞬発力だけでなく、持続力やパワー、そして長く脚を使うスタミナだ。
ヒシアムルーズは、その舞台で完璧なレースを見せた。
デビュー戦一つで断言するのは早計かもしれない。だが、重厚な血統背景とデビューで示した走りを踏まえれば、この馬がクラシックを見据える存在である可能性は十分だ。
ライバルたちとの比較
ショウナンガルフやロスパレドネスといった人気馬たちは確かに強力だ。実績や調教の動きからも、いずれも重賞を勝ち上がれる素質を秘めている。
だが、ヒシアムルーズの走りには「他と違う何か」を感じさせるものがある。先行力、折り合い、そして直線での抜け出し。芝適性に疑問が残る血統でありながら、洋芝1800メートルで見せたパフォーマンスは、むしろ芝でも通用することを証明する内容だった。
札幌2歳Sの行方
今年の札幌2歳Sは、例年以上に注目度が高い一戦となった。素質馬たちが並び立ち、どの馬が主役となっても不思議はない。
だが静かに、そして確実に存在感を増しているのがヒシアムルーズである。
「日米の名血が紡ぐ物語」は、ここ札幌から始まるのだろうか。
未来のGⅠ馬がどの馬か――その答えは、もうすぐ明らかになる。

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