夏の終わり、そして秋競馬の幕開け
9月。
蝉の声が途絶え、空気には少しずつ秋の気配が漂い始める。
競馬の世界においても、ここからが“本番”といえる季節だ。
その秋競馬の開幕を告げる重賞のひとつ――京成杯オータムハンデキャップ。
ここに出走を予定している一頭の牝馬に、多くのファンの注目が集まっている。
名は エリカエクスプレス。
牝馬でありながら、世代屈指のスピード能力を誇る快速馬だ。

圧倒的なデビュー戦 ― 京都芝1600m
彼女の物語は、昨年10月の京都競馬場で始まった。
芝1600mの新馬戦。しかも馬場状態は「稍重」という力の要るコンディションだった。
スタートから迷うことなくハナを奪う。
他馬が脚をためる中で、エリカエクスプレスは一歩も譲らず、スピードを落とさずに直線へ。
そのまま押し切るようにしてゴール板を駆け抜けた。
時計は 1分34秒7。
一見すると目立たない数字に映るかもしれない。
だがこれは、過去10年の京都芝マイル「稍重」の新馬戦で歴代2位という記録。
ちなみに1位は後にGIを制したジャンタルマンタル。
そしてもう一頭は金杯を勝ったパクスアメリカーナ。
名馬と肩を並べる走破時計を、新馬戦でいきなり叩き出したのだ。

「ただ勝った」では終わらない。
この走りで、エリカエクスプレスが持つ“規格外の資質”を競馬ファンに知らしめた。
圧巻のレコード勝利 ― フェアリーステークス
続く2戦目は、年明けの中山・フェアリーステークス。
ここでもそのスピード能力は際立った。
レースは緩みのないハイペース。
エリカエクスプレスは3番手の好位から競馬を進める。
息の入らない流れに直面しても、彼女の脚色は衰えない。
直線に向くと、鞍上の合図に応じて加速。
鋭く抜け出すと、後続との差を一気に広げ、鮮やかな逃げ切り勝ちを収めた。
記録は 1分32秒8。
これは中山芝マイルの3歳牝馬戦における「過去10年最速」のタイム。
しかもレースレコードに輝く、破格の時計だった。
この一戦によって、エリカエクスプレスは「世代最速」と称されるにふさわしい存在へと一気に押し上げられた。

光と影 ― 気性の難しさという宿命
しかし、どんな名馬にも課題はある。
エリカエクスプレスの場合、それは「折り合い」だ。
気性の荒さから、序盤で行きたがり、力を抑えきれない。
結果として自ら暴走し、脚をなくしてしまう――。
この欠点が、春のクラシック戦線で彼女を苦しめた。
桜花賞では外差し有利の馬場の中、果敢に逃げの手を打った。
直線で捕まりはしたものの、5着に粘る健闘。
そしてオークスでは距離の壁にぶつかり、力を出し切れずに敗退。
1600m以上では折り合いの難しさがネックになる。
だが、逆に言えばマイル以下ならば、この馬のスピードは「無双級」といっても過言ではない。

Xユーザーのいくえ♪さん: 「エリカエクスプレス。目力強め!逃げるエリカ様が素敵でした。 (20250525 オークス) https://t.co/69Wr7esQko」 / X
京成杯オータムハンデ ― 追い風の条件
そして迎える秋初戦、京成杯オータムハンデキャップ。
舞台は再びマイル。
しかも開幕週の中山芝コースで、馬場状態は“内前有利”になる可能性が高い。
これは明らかに、エリカエクスプレスにとってプラス材料だ。
ハナを切るにせよ、好位から進めるにせよ、
彼女の「絶対的なスピード」を存分に発揮できる条件が整いつつある。
もちろん、折り合いの難しさというリスクは常に付きまとう。
暴走すれば自滅。
だが、その危うさと紙一重で炸裂する“爆発力”こそが、この馬の真骨頂でもある。

世代最速牝馬が描く未来
ここまでの4戦2勝。
数字だけを見れば突出しているわけではない。
しかし、その中身を振り返れば「時計に裏づけられたハイレベルな走り」がある。
稍重の京都で歴代2位、
中山でレースレコード。
名馬にしか残せない実績を、すでにデビューから積み重ねてきた。
秋競馬の開幕を告げる京成杯オータムハンデ。
この舞台で再び“世代最速の脚”が炸裂するのか。
――暴走か、圧勝か。
その二択の先にある結末こそが、競馬の醍醐味であり、ロマンなのかもしれない。
まとめ
- エリカエクスプレスはデビュー戦で稍重の京都マイルを歴代2位の時計で勝利
- フェアリーSでは中山芝マイルでレースレコード樹立
- 最大の課題は「折り合い」だが、マイル以下なら世代トップ級のスピードを持つ
- 京成杯オータムハンデは距離・馬場ともに追い風の条件
世代最速牝馬の走りが、中山開幕週をどう彩るのか。
秋競馬の始まりを告げるにふさわしい、注目の一戦だ。
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