歴史に残る豪脚――。
先週土曜日の中央競馬は、重賞競走が組まれていない静かな開催だった。
多くの競馬ファンの関心は翌日に行われる重賞へ向けられ、土曜日は比較的落ち着いた一日になると思われていた。
しかし、その裏で――。
競馬ファンなら決して見逃してはいけない、歴史的とも言えるパフォーマンスが生まれていた。
舞台は中京競馬場。
この日、現地では最高気温37度を記録。
強烈な日差しが照りつける中、騎手も馬も体力を大きく消耗する過酷なコンディションとなっていた。
そんな極限の環境で、一頭だけ別次元とも言える末脚を繰り出した馬がいた。
その名は――ビービークローサー。
今回は、この一戦をラップ・レース内容・血統の3つの視点から徹底的に分析していきたい。

圧倒的人気を背負った素質馬
ビービークローサーが挑んだのは、中京8R・日進特別。
すでに多くのファンから高い評価を受けていた一頭だった。
前走の鳳雛ステークスでは、最後方近くから鋭く追い込み、ゴール前では猛烈な勢いで迫ったものの、あと一歩届かず2着。
敗戦とはいえ、その内容は勝ち馬以上とも言えるほどインパクトがあり、多くの競馬ファンがその能力を確信したレースでもあった。
そのため今回は単勝1.2倍という圧倒的人気。
「ここは負けられない」
そう思われるほど、能力は一枚抜けている存在だった。
しかし――。
レースは誰も予想しなかった展開になる。
勝負ありと思われた4コーナー
ゲートが開くと、ビービークローサーは序盤から思うようなポジションを取れない。
前へ行くこともできず、後方で砂を被る苦しい競馬。
理想とは程遠い位置取りだった。
そして4コーナー。
まだ後ろから3番手。
中京ダート1800メートルは、一般的に前で立ち回った馬が有利と言われるコース。
最後の直線は長いとはいえ、後方一気が決まり続けるような舞台ではない。
まして、この日は暑さの影響もあり、前に行く馬も簡単には止まらない流れ。
普通なら「ここまで」。
そう思われても不思議ではない位置だった。
それでも坂井瑠星騎手は慌てなかった。
内へ潜り込むのではなく、大外へ進路を選択。
その瞬間から、ビービークローサーの真骨頂が始まる。
一完歩ごとに差を詰める異次元の加速
直線へ向くと、その脚色は他馬とは明らかに違っていた。
一完歩ごとに前との差を縮めていく。
一頭。
また一頭。
馬群を飲み込みながら加速は衰えない。
残り200メートル。
ついに先頭集団へ並びかける。
そこからは力強く抜け出し、最後は危なげなく先頭でゴール。
まさに圧巻だった。
記録した上がり3ハロンは36秒4。
数字だけを見れば非常に優秀だが、本当に評価すべきなのは、その数字が刻まれた状況である。
37度という酷暑。
差しに不利な展開。
4コーナー後方3番手。
この条件が重なってなお36秒4で差し切った価値は、数字以上に大きい。
ラップが証明する「歴代ダート王級」

では、この走りを客観的な数字で見てみよう。
過去10年間の中京ダート1800メートル・良馬場。
ここで
・勝ち時計1分52秒3以内
・上がり3ハロン36秒4以内
この2つの条件を満たした3歳馬を調べると――。
該当したのは、わずか3頭しか存在しない。
・ルヴァンスレーヴ
・クリソベリル
・ビービークローサー
この顔ぶれを見れば、その価値は説明するまでもない。
ルヴァンスレーヴはダートGⅠを4勝。
クリソベリルもダートGⅠを4勝。
いずれも日本ダート史に残る名馬である。
つまりビービークローサーは、その2頭と同水準のラップを刻んだことになる。
もちろん、現時点で実績が並んだわけではない。
しかし少なくとも、「将来GⅠ級へ成長する可能性を秘めたラップ」であることは間違いない。
数字は決して嘘をつかない。
そして競馬では、このような歴史的なラップを刻んだ馬が、その後ビッグタイトルを手にするケースは少なくない。
豪脚は今回だけではない
実は今回の豪脚は、一度きりの偶然ではない。
3走前のバイオレットステークス。
このレースでも、差しが届きにくい流れの中、最後方近くから鋭く追い込み2着。
その時に記録した上がり3ハロンは34秒7。
ダート戦としては驚異的な数字だった。
芝並みと言ってもいいほどの切れ味で、多くの競馬ファンに衝撃を与えた。
つまり、ビービークローサーは以前から「常識外れの末脚」を見せ続けていたのである。
今回の勝利は、その能力を改めて証明したレースと言えるだろう。
血統から見ても、まだ完成形ではない

さらに興味深いのが血統背景だ。
父はグレーターロンドン。
現役時代は古馬になってから本格化した晩成型として知られる存在だった。
母系にはアグネスデジタル。
さらにエルコンドルパサーの血も流れている。
どちらも成長力と持続力を兼ね備えた名血であり、年齢を重ねるごとに能力を伸ばす配合と言える。
つまりビービークローサーは、まだ完成形ではない可能性が高い。
3歳夏の時点でこれだけのパフォーマンスを見せている以上、秋、そして古馬になってからさらに強くなる余地は十分にある。
もし順調に成長すれば、ダート界の頂点を狙える存在へ飛躍しても不思議ではない。
名前の意味まで体現した走り

実は「クローサー(Closer)」という名前には興味深い意味がある。
野球では、試合終盤を締めくくる守護神を「クローザー」と呼ぶ。
試合の最後を支配する存在。
勝利を決定づける存在。
今回のビービークローサーの走りは、まさにその言葉通りだった。
勝負どころで一気に襲いかかり、最後にすべてをねじ伏せる。
誰よりも鋭い末脚でレースを締めくくる姿は、「クローサー」という名にこれ以上ないほどふさわしい内容だった。
名前負けどころか、その名を完璧に体現した一戦だったと言える。
最大目標はジャパンダートクラシック
今後の大きな目標となるのは、ジャパンダートクラシックだろう。
世代最強ダート馬を決める大舞台。
そこには全国から実力馬が集まり、一瞬のミスも許されない厳しい戦いが待っている。
しかし今回見せた末脚を見る限り、その舞台でも十分に通用する可能性は高い。
もちろんGⅠは展開や相手関係も大きく影響する。
それでも「歴代ダート王級」と比較できるラップを刻んだ事実は大きい。
この数字は偶然ではなく、能力そのものを示している可能性が高いからだ。
総評
競馬では、強い馬は数多く存在する。
しかし、「歴史に残る数字」を刻める馬は決して多くない。
ビービークローサーが今回記録したパフォーマンスは、過去10年のデータで見てもルヴァンスレーヴ、クリソベリルと肩を並べるレベルだった。
さらに、差しに不利な展開、37度という酷暑、4コーナー後方3番手という厳しい条件を跳ね返しての勝利。
これらを総合的に考えれば、この勝利の価値は数字以上に大きい。
まだ完成途上と考えられる血統背景を持ちながら、すでに歴代屈指の末脚を披露したビービークローサー。
果たしてこの馬は、新たなダート王への階段を駆け上がるのか。
その答えは、次なる大舞台で明らかになるだろう。
歴史に残る豪脚を武器に、新たな怪物候補がダート界へ名乗りを上げた瞬間だった。


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