2歳レコードホルダーの再起――クレパスキュラー、復活への第一歩

今後に注目すべき馬

3歳クラシックが幕を閉じた。

皐月賞、日本ダービー。

約7000頭にも及ぶ同世代の頂点を決める戦いは、ロブチェンの二冠達成によって大きな盛り上がりを見せた。

春のクラシック戦線は終わりを迎えたが、それはすべての3歳馬にとって終着点ではない。

むしろここから新たな物語が始まる馬たちもいる。

クラシックの舞台に立てなかった馬。

期待されながらも結果を残せなかった馬。

能力を発揮できずに春を終えた馬。

そうした若駒たちは、夏から秋へ向けて再び歩みを進める。

そして今週から始まる3歳と古馬による混合戦。

ここから秋の飛躍を目指す才能たちが再スタートを切る。

その中でも特に注目したい一頭がいる。

今週土曜、東京10レース・テレビ山梨杯。

そこに出走を予定しているクレパスキュラーである。

クレパスキュラー (Crepuscular) | 競走馬データ – netkeiba

デビュー戦で示した規格外の才能

昨年8月。

札幌競馬場で行われた芝1800メートルの新馬戦。

当時はまだ無名の存在だったクレパスキュラーだが、その走りは一瞬で競馬ファンの記憶に刻まれた。

レースでは好位を追走。

折り合いにも不安はなく、余裕たっぷりの手応えで直線へ向く。

そして残り200メートル。

鞍上の合図に応えるように一気に加速した。

その瞬間、勝負は決した。

後続との差はみるみる広がり、ゴールでは5馬身差の圧勝。

さらに驚かされたのは時計だった。

記録されたタイムはレコード。

札幌1800メートルという決して時計が出やすい条件ではない中で、2歳馬としては破格の数字を叩き出したのである。

単なる新馬勝ちではない。

その内容は明らかに世代上位級だった。

競馬ファンの間でも、

「これは重賞級」

「クラシック候補ではないか」

そんな声が一気に広がった。

無傷の2連勝

続くひいらぎ賞。

舞台は中山芝1600メートル。

初のマイル戦だった。

しかし距離短縮にも不安はなかった。

最内枠からスムーズに好位を確保。

終始ロスなく立ち回り、4コーナーでは抜群の手応えで前を射程圏に捉える。

直線に入ると進路を外へ変更。

そこからの反応が凄まじかった。

まるでギアが一段上がったかのような鋭い伸び。

先行勢をあっさり交わし、最後は余裕を残したままゴールへ飛び込んだ。

これで無傷の2連勝。

そしてこのレースの価値は着差だけではない。

勝ち時計は1分32秒9。

後半4ハロンは46秒4。

2歳戦としては極めて優秀な数字だった。

実際、この時期の2歳マイル戦で同等クラスのパフォーマンスを見せた馬は限られている。

その中には後のGI馬アスコリピチェーノの名もある。

つまり時計面だけを見れば、GI級候補と肩を並べるレベルだったということになる。

能力に疑いの余地はなかった。

クラシック候補。

その評価は決して大げさではなかったのである。

春に訪れた試練

しかし競馬は能力だけで勝てるスポーツではない。

春のトライアル。

スプリングステークスで、その現実を突き付けられることになる。

レース序盤は問題なかった。

中団で折り合いをつけ、流れにも乗れていた。

ところが向こう正面から徐々に様子が変わる。

前へ行きたがる。

抑えても抑えても気持ちが前へ向いてしまう。

ルメール騎手は必死にコンタクトを取り続けた。

しかし馬自身の気持ちが勝ってしまった。

力みながら走り続けた結果、必要以上に体力を消耗。

直線ではいつもの鋭い脚が見られず、7着に敗れた。

着順だけ見れば完敗。

だが内容を精査すると違う景色が見えてくる。

能力で負けたわけではない。

気性面の課題によって自滅したレースだった。

それだけに陣営にとっても悩ましい敗戦だったはずだ。

血統に見える気性のルーツ

なぜこれほど高い能力を持つ馬が折り合いに苦しむのか。

その答えは血統にも見え隠れする。

父はリオンディーズ。

朝日杯フューチュリティステークスを制したGI馬であり、種牡馬としても活躍馬を送り出している。

一方で現役時代のリオンディーズは非常に前向きな気性で知られていた。

能力は疑いなく一級品。

しかしクラシック戦線では折り合いとの戦いが続いた。

特に皐月賞では掛かりながら走る場面もあり、その気性の難しさが語られることも多かった。

そして母父はディープインパクト。

日本競馬史上屈指の名馬である。

圧倒的な瞬発力を伝える一方で、非常に感受性の高い産駒を出すことでも知られている。

反応が鋭い。

スイッチが入りやすい。

だからこそ強烈な末脚を繰り出せる。

しかし時として気持ちが先走ることもある。

クレパスキュラーはこの両者の特徴を色濃く受け継いでいるように見える。

リオンディーズの前進気勢。

ディープインパクトの鋭い反応。

その組み合わせは爆発力という大きな武器を生む一方で、折り合いという課題も同時に生み出した。

能力が高いからこそ制御が難しい。

それは名馬候補によく見られる特徴でもある。

陣営の決断

そこで陣営が下した決断。

それが距離短縮だった。

今回の舞台は東京1400メートル。

これまでの1600~1800メートル戦から大きく距離を縮める形となる。

一見すると後退したようにも映る。

しかし実際には極めて理にかなった選択だ。

気性に課題を抱える馬にとって長距離戦は我慢比べになる。

折り合いを保ちながら走らなければならない時間が長くなるからだ。

一方で1400メートルは違う。

レース全体が速い流れで進む。

馬も自然と前へ行ける。

我慢を強いられる時間が短くなる。

結果として余計な力みが減る可能性が高い。

近年でも気性面に課題を抱えていた馬が距離短縮で一変した例は少なくない。

今回の条件変更は能力不足を補うためではない。

本来の能力を引き出すための工夫なのである。

東京1400メートルは合うのか

さらに舞台設定も興味深い。

東京1400メートルは直線が長い。

単なるスピードだけでは押し切れない。

最後まで脚を使える持続力も求められる。

これはクレパスキュラーにとってプラス材料だろう。

新馬戦では1800メートルをレコード勝ち。

ひいらぎ賞ではマイル戦で高水準ラップを記録。

単純なスプリンターではない。

十分な持続力を持っている。

むしろ折り合いさえ改善されれば、1400メートルは能力を最大限に発揮できる舞台かもしれない。

ここでスムーズに運べれば、改めて世代上位の実力を証明する可能性もある。

秋への布石

クラシックは終わった。

しかし競走馬の人生は長い。

春に結果を残せなかった馬が秋に大成する例は数え切れないほど存在する。

古馬との戦いを経験しながら成長する馬。

気性面が改善する馬。

距離適性を見つける馬。

クレパスキュラーにも十分その可能性がある。

むしろ現時点で能力の高さだけなら、まだ大きな夢を見られる素材だ。

だからこそ今回の一戦は重要になる。

勝つか負けるかだけではない。

どんな内容で走るのか。

折り合いは改善されるのか。

1400メートルという新たな条件で能力を発揮できるのか。

秋へ向けた試金石となる一戦である。

2歳レコードホルダー、クレパスキュラー。

一度はクラシックの夢から遠ざかった逸材。

しかしその才能が消えたわけではない。

むしろ今は、本当の適性を探す過程にいるのかもしれない。

テレビ山梨杯。

このレースが、再び大舞台への道を切り開く第一歩となるのか。

注目したい。

コメント

タイトルとURLをコピーしました