競馬ファンであれば、その名を知らぬ者はいないだろう。
世界の大舞台を渡り歩き、数々のGⅠを制し続けてきた名手――ランフランコ・デットーリ。
ヨーロッパを中心に、アメリカ、中東、そして日本。
あらゆる舞台で勝利を積み重ね、「世界最高峰」と称されるその騎乗技術は、まさに芸術の域にある。
日本競馬界のレジェンドである武豊でさえ、彼に対して深いリスペクトを示していることは有名な話だ。
そんなデットーリが、2024年の冬――来日時に“別格”とまで評した一頭の若駒がいる。
その名はナグルファル。
明日の天神橋特別に出走予定のこの馬は、かつて「クラシック候補」とまで呼ばれた逸材だ。
しかし現在の評価は決して高くない。
なぜなら、あの絶賛から歯車が狂い始め、4連敗という苦しい道を歩んできたからである。
だが――。
条件が揃った今、再びスポットライトを浴びる時が来たのかもしれない。
■ デットーリが認めた“別格”の走り
ナグルファルが衝撃を与えたのは、2024年12月7日のエリカ賞。
2歳馬による芝2000mの一戦だった。
このレースでデットーリは2着馬ワンモアスマイルに騎乗していた。
つまり、彼は“敗れた側”から勝ち馬を見ていたのである。
レース内容はこうだ。
ナグルファルはスタートを決めると、無理なく2番手へ。
折り合いも完璧で、道中は余裕すら感じさせる手応え。
直線に入ると早々に先頭へ立ち、後続の追撃を寄せ付けず完勝。
危なげのない内容で、能力の違いを見せつけた。
勝ち時計は2分00秒7。
上がり4ハロン46秒4。
この数字が意味するものは重い。
過去10年の2歳京都芝2000m戦において、この水準に到達した馬はわずか。
その中にはGⅠ2勝を挙げたミュージアムマイルの名がある。
つまり、時計面から見ても“クラシック級”の裏付けがあったということだ。
レース後、デットーリはこう語った。
「あの馬は別格だ。強い。」
敗れた騎手から出る最大級の賛辞。
それは決して社交辞令ではない。
世界を知る男が本気で驚いた証だった。
■ クラシック候補から暗転
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当然、翌年はクラシック戦線へと歩みを進める。
皐月賞前哨戦・弥生賞へ出走。
3番人気という高評価を受け、多くのファンが復活の怪物誕生を期待した。
しかし――。
当日の馬場は稍重。
前日からの雨で芝は水分を含み、力の要るコンディションとなっていた。
結果は12着大敗。
レース後に見えてきたのは、明確な“弱点”。
ナグルファルは雨馬場を極端に苦にするタイプだったのだ。
そこから運命は悪戯をする。
次走、またも稍重。
さらにその次も重馬場。
4戦連続で雨の影響を受け、能力を発揮できないまま4連敗。
もちろん、連敗という事実だけを見れば評価は下がる。
しかし内容を精査すれば、決して能力そのものが消えたわけではない。
・良馬場時のパフォーマンスは一級品
・切れ味勝負でこそ真価を発揮
・持続的なトップスピード能力は世代上位
敗因は明確だった。
「条件不適」。
それだけに、評価を落としすぎるのは危険だ。
■ そして迎える本年初戦
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今年、ナグルファルは天神橋特別でシーズン初戦を迎える。
現在の天気予報は晴れ。
さらに開幕週。
高速馬場が濃厚だ。
これは明らかに好材料。
・乾いた良馬場
・スピードが問われるコンディション
・瞬発力が活きる舞台
かつてエリカ賞で見せたあの加速。
上がり4ハロン46秒4という水準。
あの走りを再現できる条件が整った。
むしろ今回こそが“真価を測る一戦”と言っていい。
■ 復活か、それとも幻想か
競馬の世界は非情だ。
一度評価を落とせば、再び頂点へ戻るのは容易ではない。
だが、だからこそドラマがある。
デットーリが絶賛した逸材。
時計も裏付けがある。
弱点も明確。
ならば答えはシンプルだ。
適条件でどうか。
もしここで圧巻のパフォーマンスを見せれば、再びクラシック路線、あるいは古馬重賞戦線へと道は開ける。
逆にここで凡走するなら、評価の見直しは避けられない。
分岐点。
それが今回の天神橋特別だ。
■ 私見――狙う価値はある
過去のパフォーマンス、ラップ水準、加速力。
どれを取っても素質は確か。
4連敗の印象で人気を落とすなら、むしろ妙味はある。
開幕週の良馬場。
先行して抜け出す形が理想。
雨さえ降らなければ――。
あの時デットーリが感じた“別格”。
それが本物であるなら、ここで再び証明されるはずだ。
ナグルファルは終わったのか。
それとも、ここから始まるのか。
明日の天神橋特別は、単なる条件戦ではない。
“評価を取り戻す戦い”である。
世界の名手が認めた逸材の復活劇。
その瞬間を、我々は目撃できるのか。
答えは、ターフの上にある。

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