■序章:血が導く運命
10月、曇り空の東京競馬場。
この日、ひとつのレースが静かに始まろうとしていた。
東京5R・メイクデビュー東京。
その出走表の中に、ファンが息をのむ一頭の名があった。
――イクシード。
あの“史上最強馬”イクイノックスの全妹。
父キタサンブラック、母シャトーブランシュという血統背景。
兄が世界を制した名馬であるがゆえに、彼女の一挙手一投足には異常な注目が集まっていた。
兄が歩んだ偉大すぎる軌跡。
それを継ぐ妹が、ついにターフへと降り立つ――。
まるで“運命”そのものが、この瞬間を導いたかのようだった。
■第1章:偉大なる血脈 ― 宿命のデビュー
イクシードの父・キタサンブラックは、天皇賞春秋連覇、有馬記念制覇などGI7勝を挙げた日本競馬史屈指の名馬。
母シャトーブランシュはマーメイドSを制した実力馬で、牝馬としては珍しく重厚なパワーと粘りを兼ね備えていた。
そんな2頭の間に生まれたイクイノックスは、言うまでもなく世界最強の称号を得た存在。
そして、その全妹であるイクシード――。
「兄と同じように、東京芝2000メートルでデビューする」という事実が、すでにこの血統の“宿命”を物語っていた。
外枠12番。
このコースでは距離ロスが大きく、不利とされるポジション。
しかし彼女の表情(おもかげ)は落ち着いていた。
ゲートへと向かう姿は堂々としており、兄譲りの大舞台向きの気質が漂っていた。
ファン、関係者、そして全国の競馬ファンが――その瞬間を息を殺して待つ。
■第2章:運命のゲート ― “滑るように”走る天性のバランス
スタート。
大外12番枠から飛び出したイクシード。
しかし、外に膨れる形でわずかにロスを生む。
通常なら、この時点で勝ち筋は薄い。
だが彼女は、まったく慌てる素振りを見せなかった。
向こう正面。
騎手の手綱に応えながら、じわりとポジションを上げていく。
馬群の中での折り合いもスムーズで、初陣とは思えぬ落ち着き。
その脚捌きには、どこか「滑るような」軽やかさがあった。
直線。
馬群の外へと持ち出されると、ギアが切り替わる。
残り400メートル――。
まるで兄イクイノックスを彷彿とさせるような、無駄のないフォーム。
馬なりのまま、音もなく加速していく。
上がり3ハロンは驚異の33秒4。
デビュー戦とは思えない完成度で、観客のざわめきが広がった。
あの“血の閃光”が、再びターフを走った瞬間だった。
■第3章:記録が示す“本物”の証明
残り200メートル。
内で粘るモンシークをあっさりと交わし、イクシードは悠然とゴール板を駆け抜けた。
勝ち時計――2分00秒2。
これは、東京芝2000メートルの新馬戦史上、最速記録である。
さらにラスト2ハロンのラップは、11秒4―11秒2。
加速ラップを刻むというのは、名馬にしかできない芸当だ。
普通の新馬戦では、疲労によりラップが落ちるのが常。
だが彼女は、最後まで加速を続けていた。
この条件で同様の時計を叩き出した名馬を遡ると、錚々たる顔ぶれが並ぶ。
- ジャスティンミラノ(皐月賞馬)
- ダノンベルーガ(ドバイターフ2着)
- アーバンシック(菊花賞馬)
- ミュージアムマイル(皐月賞馬)
- ファントムシーフ
- キングズレイン
いずれも後にGI・重賞戦線を沸かせた馬たちだ。
その仲間入りを果たすどころか、彼らを上回る時計で駆け抜けたイクシード。
この時点で、彼女が“クラシック級”であることに疑いの余地はなかった。
■第4章:兄を超えるための第一歩
レース後、関係者の間では「初戦から完成度が高すぎる」と驚きの声が上がった。
大外から差し切る――それは東京2000メートルでは極めて珍しい勝ち方。
さらに、スムーズなフォーム、無駄のない呼吸、どこか“女王の風格”を感じさせる走り。
彼女の走りには、兄イクイノックスとは異なる“しなやかさ”があった。
兄は力強く、王のような走りで世界を制した。
一方、イクシードのそれは、より繊細で、研ぎ澄まされた美しさがある。
同じ血を引きながら、まったく別の“個性”で勝負する存在。
それこそ、血統の奥深さであり、競馬の魅力でもある。
そして、彼女の名――“イクシード(Exceed)”――。
その意味は「超える者」。
まるで、運命に刻まれたテーマのようだ。
偉大な兄を“超える”という宿命を背負いながら、彼女は静かに、確実にその第一歩を踏み出した。
■終章:血が刻んだ証明
東京芝2000メートル。
内枠先行有利と言われる舞台で、大外12番から堂々と差し切ったイクシード。
その内容は、着差以上に価値がある。
デビュー戦という枠を超えた完成度。
そして、血が導いた“必然の走り”。
2分00秒2――この時計は、単なる数字ではない。
それは、「史上最強馬の妹」としての期待を背負いながらも、
自らの力で掴み取った“血の証明”そのものである。
次走がどの舞台になるかはまだ定かではない。
だが、この走りを見た誰もが、同じ未来を思い描くだろう。
――来春のクラシック戦線。
兄イクイノックスがかつて制した栄光の舞台に、妹イクシードの名が刻まれるその日を。
血は、嘘をつかない。
そして、その血が――またひとつ、歴史を動かす。
🏇まとめ
- イクイノックスの全妹・イクシードが東京芝2000mでデビュー勝ち。
- 外枠12番から上がり33秒4、勝ち時計2分00秒2(史上最速)。
- 兄を彷彿とさせる加速ラップ(11.4―11.2)。
- 東京2000mの“外差し勝利”という異例のパターン。
- 名に込められた意味は「超える者」。兄を超える宿命を背負う。
次に彼女がどの舞台へと歩を進めるのか――。
その一戦一戦が、日本競馬の未来を照らす“血の物語”になるに違いない。


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