■ 高野友和調教師と「疾風一族」
栗東トレーニングセンターに拠点を置く高野友和調教師。
ジャンタルマンタルやショウナンラプンタといったGI戦線で活躍する馬を管理し、近年、急速に注目を集めている有力厩舎だ。
そんな高野厩舎から、また一頭――将来を大きく嘱望される新星が誕生した。
その名は グッドピース。
9月、阪神競馬場の第5レース・2歳新馬戦でデビューを飾り、ファンの度肝を抜く鮮烈な勝利を収めた。
今回の記事では、この新星の血統背景、デビュー戦の内容、そしてデータから読み解ける将来性について、じっくり掘り下げていきたい。
■ グッドピースの血統 ― 受け継がれる快速の血
グッドピースはイギリス生まれの外国産馬。
その血統表を眺めると、「スピード」という言葉がこれほど似合う一族は他にないと感じさせる。
まず叔父にあたるのは、2018年のスプリンターズステークスを制した ジャンダルム。母のビリーヴ譲りの快速を武器に、短距離戦線で長く存在感を放った名馬だ。
母は短距離戦に特化し、1200メートル以下で通算7勝をマーク。ダートでも芝でも切れ味を見せた典型的なスピード馬だった。
さらに目を引くのは祖母 ビリーヴ の存在である。
高松宮記念、スプリンターズステークスを制した短距離女王で、2000年代前半の日本競馬を代表する快速馬の一頭。その産駒・孫世代からも、ジャンダルムやフィリーバードなど活躍馬が次々と誕生している。
つまりグッドピースは、「疾風一族」とも呼ぶべきスプリント血統の直系。
血統背景からして、瞬発力とスピードに特化した才能を受け継いでいることは明白だ。
■ デビュー戦 ― 緩い流れを支配した落ち着き
そして迎えたのが、先週土曜の阪神芝1600メートル新馬戦。
ゲートが開くと、グッドピースは好スタートを切り、難なく好位へ。新馬戦らしく全体的に流れは落ち着き、前半3ハロンは36秒8という緩やかなペースだった。
こうした緩い流れの中では、気性の若い2歳馬が折り合いを欠いて前に行きたがるケースも少なくない。だがグッドピースは違った。鞍上の指示にきっちり応え、リズム良く我慢を利かせながら進む。その落ち着きぶりは、キャリア1戦目とは思えないほどの完成度を感じさせた。
そして直線。
残り400メートル地点でスッと外に持ち出されると、そこから走りが一変。鞍上の軽いゴーサインに応じ、ギアを一段階、いや二段階上げたかのような切れ味を発揮した。
スムーズな加速、鋭く伸びる脚。
その勢いは一気に前を飲み込み、後続馬を寄せつけないまま堂々とゴール板を駆け抜けた。
■ 33秒2の上がり ― 過去10年で5位タイの快脚
このレースで記録した上がり3ハロンは 33秒2。
阪神芝1600メートルの新馬戦における勝ち馬の上がりタイムとしては、過去10年で5位タイにあたる。新馬戦は仕上がり途上の馬が多いため、時計的には平凡になりがちだが、その中での「33秒2」は異例の速さと言える。
さらに注目すべきは走破時計。
このレースを1分34秒台でまとめ、なおかつ上がり33秒台を記録した馬は、過去10年でわずか9頭しか存在しないのだ。
■ データが示す未来 ― セリフォスをも凌ぐ末脚
その9頭の中には、後にGIマイルチャンピオンシップを制した セリフォス。
2歳重賞で好走を重ねた エアスピネル、牝馬重賞を制した イズジョーノキセキ といった実力馬たちが名を連ねる。
つまり「阪神芝1600メートル・新馬戦で1分35秒1以内+上がり33秒台」をマークした時点で、将来の活躍を大きく期待できる指標になるわけだ。
そして驚くべきは、グッドピースの記録した 33秒2 が、そのセリフォスの新馬戦をも上回る速さだったという事実。
データは雄弁に語っている。
「ただの新馬勝ちではない。重賞級の素質を秘めた走りだった」 と。
■ 可能性を秘めた新星
血統に宿る快速の資質。
デビュー戦で見せた落ち着きと切れ味。
そして数字が裏付ける重賞級のポテンシャル。
グッドピースは、間違いなく「疾風一族」の新たな旗手となる存在だ。
もちろん、まだキャリア1戦を終えただけ。競走馬の成長には波があり、この先に壁も訪れるだろう。だが、血統と実績の両面から見ても、将来を大いに渇望させる素材であることに疑いはない。
■ 結び ― 次走に要注目
まだ始まったばかりの物語。
しかし、この馬の先に広がる未来は、きっと私たちの想像を超えていくだろう。
グッドピース。
その名を、ぜひ記憶に刻んでほしい。
次走でどんな走りを見せてくれるのか――。
要注目の一戦が、すでに待ちきれない。
コメント