2025年9月6日、札幌競馬場。
秋競馬の気配が漂い始めた初秋の空の下、5R・2歳新馬戦で衝撃の走りを披露した一頭がいる。
その名は――リリージョワ。
彼女が刻んだ時計は、ただの新馬戦の勝利を超え、歴史に新たな1ページを加えるものだった。

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■ 血統に息づく名門の系譜
リリージョワを管理するのは、栗東・武幸四郎厩舎。
送り出した調教師はあの武豊の実弟であり、現役時代はGⅠ馬を数多く導いた名手でもある武幸四郎だ。
血統面を見れば、父はシルバーステート。母系をさかのぼれば、2011年の秋華賞を制した名牝アヴェンチュラの血が流れている。

アヴェンチュラは現役時代、その切れ味鋭い末脚でファンを魅了し、牝馬クラシック戦線を盛り上げた存在。その血が脈々と受け継がれているとなれば、自然と陣営の期待も大きくなる。
しかもシルバーステート産駒といえば、小柄ながらもスピード能力に秀で、芝マイル前後で非凡な適性を見せる馬が多い。リリージョワのプロフィールは、この血統背景だけで十分に期待を抱かせるものだった。
■ デビュー前から漂っていた只ならぬ気配
調教の段階から、リリージョワは評判が高かった。
デビュー前に行われた併せ馬では、年上の3歳馬や古馬相手に優勢に立つシーンが幾度もあった。
その動きは軽快で、追えば追うほど伸びていく。騎乗した関係者からも「手応え以上に動いてくれる」との声が上がり、調教場にいる者たちの視線を集めていた。
小柄な馬体ながら、勝負根性の強さと持続力を兼ね備えている。そんな印象が強く刻まれていた。
■ 新馬戦――決して完璧ではなかった走り
迎えたデビュー戦。舞台は札幌芝1500メートル。
スタートは決して速くはなかった。道中も馬群の外を回り、決してロスのない競馬ではなかった。
2歳馬にとって初めての実戦は、往々にしてスムーズさを欠くものだが、リリージョワもその例外ではなかった。
だが直線に向くと、鞍上の浜中俊が軽く手を動かしただけで、リリージョワのギアは一気に上がった。
外から矢のように伸び、肩ムチひとつで後続を突き放す。
ゴール板を駆け抜けた時には、なんと3馬身半の差をつけていた。
勝ち時計は1分29秒4。
一見、派手な数字ではないように思えるかもしれない。だが、この時計がどれほど価値あるものかは、過去の記録と比較すれば一目瞭然だ。

■ 牝馬最速――札幌1500mの歴史を塗り替える
過去10年、札幌芝1500メートルの新馬戦で牝馬が記録した中で、リリージョワの時計は最速。
さらに驚くべきは、その数字がわずか2週間前に行われたクローバー賞(オープン特別)より速かったことだ。
加えて、同日の3歳以上1勝クラスと同タイム。格上相手と同等のパフォーマンスを、初陣であっさりと示したのである。
つまり、リリージョワの走りは「単なる新馬勝ち」ではなく、「世代の中で抜けた資質を持つ」と証明するものだったのだ。
■ 課題を残しながらも光る才能
もちろん課題もある。
スタートにやや甘さを見せ、道中も外を回る不利があった。レース運びの完成度という点では、まだ発展途上といえる。
だが、それでもこれだけの時計を出した事実が恐ろしい。
「スムーズに走れば、もっと速くなる」――そう誰もが感じずにはいられなかった。
■ 小柄な馬体に秘められた可能性
デビュー戦の馬体重は440キロ。競走馬としては小柄な部類に入る。
しかし、それは成長の余地を残しているということでもある。
芝馬に求められる瞬発力はすでに備わっており、今後の成長曲線を描けば、その強さはさらに増していくだろう。
距離適性は現状マイルまでと見られるが、2歳マイル路線で有力候補に名乗りを上げるのは間違いない。
■ 鞍上・浜中俊のコメント
レース後、鞍上の浜中俊は落ち着いた口調でこう語った。
「まだ子供っぽい部分はありますが、それでもこれだけ走れるのだから素質は相当です。大きな舞台を意識できる馬だと思います」
経験豊富な浜中が語る「大きな素質」。この言葉こそ、リリージョワの未来を示す何よりの証言だろう。
■ 今後の展望――2歳牝馬戦線の主役へ
リリージョワが今後どの路線を歩むのかは、現時点では明言されていない。
だが、牝馬最速のデビューを飾った以上、阪神ジュベナイルフィリーズ(GⅠ)を意識するのは自然な流れだ。
クラシック戦線を見据えるか、早めに重賞で腕試しをするか――陣営の選択に注目が集まる。
血統、走り、そしてデビュー戦での衝撃的なパフォーマンス。
その全てが「大物感」を漂わせる。
名門の系譜に連なる小柄な牝馬が、この先どのような物語を紡いでいくのか、競馬ファンならずとも胸が高鳴るだろう。
■ 終わりに――始まったばかりの物語
リリージョワ。
名牝の血を受け継ぎ、名門厩舎から送り出された新星。
牝馬最速という記録をデビュー戦であっさりと手にしたその姿は、まさに「衝撃」の一言に尽きる。
まだ小さな体には、計り知れない未来が詰まっている。
そしてその未来が、どこまで広がっていくのかは誰にも分からない。
ただひとつ確かなのは――。
彼女の物語は、まだ始まったばかりだ。

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